2014年11月7日 食品表示基準案「答申書」へ反対の意思を表明するとともに消費者委員会に抗議する文書を提出

消費者委員会に厳重に抗議するとともに食品表示基準の「答申」内容に強く反対します。

2014年11月7日、消費者担当大臣、消費者庁長官、消費者委員会委員長宛てに、消費者員会の食品表示基準案に関する「答申書」への反対の意思を表明するとともに、消費者委員会に抗議する文書を提出しました。

食品表示基準「答申」への反対意見および消費者委員会への抗議文

消費者委員会は、同委員会「食品表示部会」が10月31日に食品表示基準案に関する「答申書案」を同委員会に提出したことを受け、同日、内閣総理大臣にその内容を踏まえた「答申書」を提出しました。この答申書は、消費者から批判の強い消費者庁提案の食品表示基準案をそのまま認めるものであり、事業者の利益のみを最大限重視した内容です。答申書案を検討した同委員会食品表示部会の検討経緯にも疑問がもたれています。同部会は、10月15日には消費者庁案に「反対し修正を求める」内容だった答申書案を、わずか2週間後の31日には、消費者庁案にことごとく「賛成する」内容へと180度転換させる結論を出しました。答申にいたる検討経過、及び内容については、不透明極まりない重大な疑義がもたれる前代未聞の答申となっています。

一つの例として、消費者委員会「食品表示部会」は、部会全体のコンセンサスを得るための丁寧な検討を放棄し、項目ごとに「多数決」を採用するなど、およそ「消費者の権利の尊重」に軸足を置くはずの食品表示に関する検討には馴染まない方式を採用しました。一般に、施策決定に多数決を導入するには、委員会構成の公平性について、及び一人ひとりの委員について、国民・消費者の納得と信頼・確認を前提としますが、その検証もなされないままに、安易な審議方式が採用されました。部会委員の選任方法をはじめ、部会での少数派の意見をどう尊重するかという民主主義の基本すら考慮しない、独善的な審議方法がとられたのです。この点も前代未聞です。

答申にはパブリックコメントで寄せられた多くの消費者の意見が反映されていません。むしろ、安全の権利、知らされる権利、選択する権利など、「消費者の権利」を侵害する内容ばかりとなっています。「権利」と「利益」の混同が見られます。

本来、消費者行政を消費者目線から監視する機能をもつ消費者委員会にあっては、事業者の利益のみを重視した消費者庁案に対しては、消費者の権利を守る立場からの「建議」の提起によって、その姿勢をただすのが国民・消費者の期待にかなう消費者委員会のあり方のはずです。

にもかかわらず消費者委員会は、その重大な役割を認識せず、消費者庁の施策提案に反対すらできず、消費者の期待に応え得る姿勢を貫くこともせず、消費者の望まない食品表示基準案に賛同するという極めて大きな過ちを犯しました。このような消費者委員会にあっては、今やその存在意義すら厳しく問われているものと思わざるを得ません。

今回の答申書案は、国民・消費者から付託された消費者委員会の権限を自ら放棄するものであり、消費者の権利の尊重へ向け「独立して職権を行う」と設置法で保証された消費者委員会委員の、その法的権限すら放棄するものです。

私たち「食品表示を考える市民ネットワーク」は、以下のように、今回の答申書に反対を表明するとともに、消費者委員会に対し、厳重に抗議します。

【記】

1. 実施経過措置「5年」への延長は撤回すべきです 

消費者委員会「食品表示部会」が10月15日に提示した最初の答申書案の付記では、表示実施の経過措置期間について消費者庁が示すような「5年という比較的長い経過措置期間を設ける必然性を確認できない」とし、「消費者庁案は不適当」とする判断を示していました。ところが、2週間後の10月31日の答申書案は、消費者庁からの様々な「出来ない理由」をすべて受け入れ、5年延長などを認める見解を示し、消費者委員会もそれを了承するに至りました。食品表示一元化の検討期間を含めると、実施までに10年以上をかけることになります。「5年延長」の方針はすみやかに撤回すべきです。

2.製造所固有記号は廃止し、製造所名や所在地を記載するという原則に戻すべきです同制度は廃止し、製造所所在地及び製造者の氏名を表示する本来の原則へと戻すべきです。

答申は、同一商品を2つ以上の工場で製造する場合に製造所固有記号の使用を認め、業務用食品をその対象外とする消費者庁案を了承しました。しかし、消費者からのパブリックコメントをはじめ、部会委員の中にも、この措置について反対の意見が散見していました。製造所固有記号は、現在、事業者の利便性を図るためだけの制度であることが、私たち「食品表示を考える市民ネットワーク」の調査でも判明しています。

3.栄養成分の義務化に関する「小規模対象事業者」を消費税法規定に限定すべきです 

答申は、表示を省略できる小規模事業者の考え方について、「当分の間、中小企業法にもとづく小規模企業者を対象にする」との消費者庁案を了承しました。しかし、すべての加工食品の義務化を前提とすることを踏まえるなら、期間があいまいで、要件に抜け穴の可能性が指摘され、消費者に混乱をきたす消費者庁案は採用すべきではありません。これも事業者の利益のみを考慮し、消費者の権利をまったく尊重していない措置であり、当初の予定の通りに消費税法規定の小規模事業者に限定するとともに、すべての事業者が表示するよう早急に対策を講ずるべきです。

4.栄養強調表示(減塩) 

答申は、ナトリウム量の低減された旨の表示について、25%ルールからしょう油と味噌を除外する消費者庁案を了承しました。このような特例を認めることは、表示についての消費者の混乱を招くことにつながり、特例を認めない基準を示すことこそ、一元化の目的にかなうものです。特例措置は撤回すべきです。

5.任意ナトリウム表示は食塩相当量を前にもってくるべきです 

答申は、栄養成分表示に関するナトリウムの表示に関して、食塩相当量の記載を原則とし、「ただし、ナトリウム塩を添加していない食品に限り、任意でナトリウムの含有量を表示することができるとし、その場合の表示は、ナトリウムの量の次に食塩相当量を括弧書き等で表記する」という消費者庁案を了承しています。消費者が知りたいのは「食塩相当量」であることを考えるなら、任意であっても食塩相当量を統一的に先に記載すべきです。

6.検討に際しての多数決方式採用についてその理由と経緯を明確に説明すべきです

今回の消費者委員会の答申にいたる過程の中で、最も不透明なのは、食品表示部会の検討で、突然、多数決が採用されたことです。また10月15日と31日の検討では、答申書案の結論が180度転換され、全く逆のものとなったことも極めて不透明です。

内閣総理大臣(消費者庁)からの諮問項目について「10月24日時点での各委員意見」が10月31日の部会資料として公表されていますが、ここには、諮問項目に「不賛成」を表明している委員が項目ごとに「3人」から「6人」の範囲で存在しています。最も多い「不賛成」は「製造所固有記号」に関する「6人」で、「経過措置の延長」についても「5人」の「不賛成」が記載されています。しかも、記載されているのは「不賛成」のみであり、消費者庁案に「賛成する」との意見数は記載されていません。

部会の構成を見ると、部会長と部会長代理は消費者委員会委員が兼ねています。この方々がそもそも採決の対象に入るのか議論あるところです。それらの人々を除外すると、委員数は14人となります。14人の中で、「不賛成」を「6人」もの委員が表明するのはどんな事態でしょうか。それを押し切っての「答申」にどんな信頼あるいは信ぴょう性があるというのでしょうか。

また、これまでの議事録を見ても、自らの意見を公の場でまったく表明していない委員がいたり、消費者代表と言われながら、事業者委員から「消費者代表とは考えられない意見」と批判されたりした委員も存在します。委員構成、及び、委員人選、その責任を考慮しない中での、意図的な審議運営だったと思わざるを得ません。

多数決は、およそ「消費者の権利の尊重」を前提とした食品表示に関する検討には馴染まない方式です。事業者の「利益」が消費者の「権利」と比較されることはできません。にもかかわらず、消費者委員会は、消費者と事業者の意見のバランスを考えて検討しているという消費者庁の説明そのままに、「消費者と事業者の利益を調整する」という旧来の「霞が関行政」の悪弊をそのまま受け入れています。

前述したように、部会委員の選任方法をはじめ、部会での少数派の意見をどう尊重するかという民主主義の基本すら考慮しない運営がなされたこと、これは、組織を独善的なものへと導くものです。

この点を踏まえた上で、消費者委員会は、今回の答申について、その過程で、多数決方式を採用したのはなぜか、その理由と経緯を明確に国民・消費者に明らかにするとともに、今一度、「消費者の権利の尊重」と「委員は独立して職権を行う」ことを明記した消費者委員会設置法の精神を遵守することを訴えます。

そして、何よりも、消費者委員会の委員は、同委員会の存在意義が厳しく問われる事態になっていることを真摯に、危機感をもって認識し、消費者の期待に応えられ得る消費者委員会へと適正化を図っていくことを求めます。

以上